仮想通貨取引の世界では、「アービトラージで簡単に儲かる」という話をよく耳にします。特にYouTubeでは多くの動画が「確実な利益」を約束しています。例えば以下のような動画
- 「1日10万円!仮想通貨アービトラージの秘密」
- 「誰でもできる!取引所間価格差で稼ぐ方法」
- 「自動売買ボットで寝ている間に利益を得る方法」


アービトラージとは何か?
アービトラージとは、同じ資産の価格差を利用して利益を得る取引手法です。例えば
- 取引所Aでビットコインを50,000ドルで購入
- 取引所Bで同じビットコインを50,500ドルで売却
- 理論上は500ドルの利益
簡単そうに見えますが、実際はどうでしょうか?
なぜアービトラージは儲からないのか
1. 手数料の壁
多くの初心者が見落としがちなのが取引手数料です。
# 手数料計算の例
購入価格 = 50000
売却価格 = 50500
購入手数料 = 購入価格 * 0.001 # 0.1%の手数料
売却手数料 = 売却価格 * 0.001 # 0.1%の手数料
送金手数料 = 20 # 固定手数料
理論上の利益 = 売却価格 - 購入価格
実際の利益 = 理論上の利益 - 購入手数料 - 売却手数料 - 送金手数料
print(f"理論上の利益: {理論上の利益}円")
print(f"実際の利益: {実際の利益}円")
この計算をすると、理論上は500ドルの利益が、実際には455ドル程度に減少します。さらに小さな価格差の場合、手数料で利益が完全に消えてしまうことも珍しくありません。
下記エンジニアチャンエルのYoutube動画では、pythonで自動売買ソフトのコーディング様子が公開されてますが、実行結果としてはマイナスでした。手数料を考慮できていなかったようです。

またMaesanのIT教室の検証では、手数料を考慮した十分な価格差が発生した時のみ、取引実行するプログラミングを組んでます。夜のうちに6時間稼働させましたが価格差が発生しませんでした。

2. スピードの問題
アービトラージの機会は一瞬で消えます。Pythonでボットを作っても:
import time
import requests
def check_prices():
start_time = time.time()
# 取引所Aの価格を取得
response_a = requests.get('https://取引所A/api/price')
price_a = response_a.json()['price']
# 取引所Bの価格を取得
response_b = requests.get('https://取引所B/api/price')
price_b = response_b.json()['price']
# 価格差を計算
price_diff = price_b - price_a
end_time = time.time()
execution_time = end_time - start_time
print(f"価格差: {price_diff}円")
print(f"実行時間: {execution_time}秒")
# ここで実際の取引を行う前に価格が変わっている可能性が高い
このコードを実行すると、価格を取得するだけでも数百ミリ秒かかります。その間に市場は動き続け、発見した価格差は消えているかもしれません。
3. 流動性の罠
小さな取引所では流動性(すぐに売買できる量)が限られています。
# 注文板の例
買い注文 = [
{"価格": 49900, "数量": 0.2},
{"価格": 49800, "数量": 0.5},
{"価格": 49700, "数量": 1.0}
]
売り注文 = [
{"価格": 50100, "数量": 0.3},
{"価格": 50200, "数量": 0.4},
{"価格": 50300, "数量": 0.8}
]
# 1ビットコイン購入しようとすると、実際の平均購入価格は?
# → 表示価格よりも高くなる
1ビットコインを売却しようとしても、注文板の深さが足りずに、想定よりも安い価格でしか売れないことがあります。
4. 送金の遅延と手数料
取引所間でコインを移動する時間も問題です。
# 取引所間送金の擬似コード
def transfer_crypto(from_exchange, to_exchange, amount):
# 送金開始
transaction_id = from_exchange.withdraw(amount)
# 送金状態確認
status = "pending"
while status != "completed":
status = from_exchange.check_transaction(transaction_id)
print(f"送金状態: {status}")
time.sleep(60) # 1分ごとに確認
# 送金完了までに数十分かかることも
print("送金完了")
ビットコインの送金は数十分、場合によっては数時間かかることがあります。その間に価格差は消えているでしょう。
5. 市場の効率化
プロのトレーダーやボットが既に市場に存在し、大きな価格差はすぐに埋められます。
# 時間経過による価格差の推移
import matplotlib.pyplot as plt
時間 = [0, 1, 2, 3, 4, 5] # 分
価格差 = [500, 300, 150, 80, 30, 10] # 円
plt.plot(時間, 価格差)
plt.title("時間経過による価格差の推移")
plt.xlabel("時間(分)")
plt.ylabel("価格差(円)")
plt.show()
グラフを描いてみると、価格差は時間とともに急速に小さくなることが分かります。
実際のアービトラージボットの問題点
Pythonでアービトラージボットを作る際の現実的な問題:
# アービトラージボットの擬似コード
def():
while True:
try:
# 価格を取得
prices = get_all_exchange_prices()
# 利益機会を探す
opportunities = find_opportunities(prices)
for opp in opportunities:
# 理論上の利益を計算
profit = calculate_theoretical_profit(opp)
# 手数料を差し引く
real_profit = profit - calculate_fees(opp)
if real_profit > 0:
# 取引を実行
execute_trade(opp)
print(f"取引実行: 予想利益 {real_profit}円")
# 実際の結果を確認
actual_profit = verify_profit()
print(f"実際の利益: {actual_profit}円")
# 多くの場合、actual_profit < real_profit
time.sleep(1) # 1秒待機
except Exception as e:
print(f"エラー発生: {e}")
time.sleep(5) # エラー時は5秒待機
このコードが示すように、理論上の利益と実際の利益には大きな隔たりがあります。
経験者の声
多くの経験者が次のように語っています:
「アービトラージで利益を出すには、プロレベルのインフラと資金力が必要です。家庭用PCと少額の資金では太刀打ちできません。」
「3ヶ月間ボットを稼働させましたが、手数料を差し引くとマイナスでした。YouTubeの動画は現実を反映していません。」
まとめ
仮想通貨アービトラージは理論上は魅力的ですが、実際には:
- 取引手数料が利益を大きく減らす
- 価格差を発見してから取引するまでの遅延が問題
- 流動性の低さが実際の取引価格に影響
- 取引所間の送金に時間とコストがかかる
- 市場は既に効率的で、大きな価格差はすぐに消える
初心者の方がYouTubeの動画に惹かれるのは理解できますが、「簡単に儲かる」という話には常に注意が必要です。仮想通貨投資を検討するなら、長期的な視点で、リスクを理解した上で行うことをお勧めします。
参考資料
各取引所の手数料体系
- 仮想通貨の送金時間とコスト
- アルゴリズム取引の基礎知識
- 投資リスク管理の方法
- 仮想通貨市場の分析
少額から始めて経験を積むことが、仮想通貨取引の世界では何よりも大切です。